総会に合わせて講演会も開きました。日印協会理事長で元駐インド大使の平林博氏が「近未来の超大国インドと発展する日印関係」と題し、インドの外交・経済政策や日本との関係、現地でビジネスをする際の心構えなどを紹介。「インドに関心を持ち、民間交流を図ることが今後ますます重要になる」と述べました。
2018年 活動報告
「民間交流 ますます重要に」 日印協会理事長が講演
近未来の超大国インドと発展する日印関係
日印協会理事長・元駐インド大使: 平林博氏
インドを理解するためには五つの基本事項、すなわち①国の大きさ、②多様性の中で統一が図られていること、③世界最大の民主主義国家であること、④親日国であること、⑤戦略的・地政学的に重要な国であること-を押さえておきたい。インドには29州7連邦直轄地があり、欧州連合(EU)並みの面積に13億人超の人々が暮らしている。民族や言語、宗教が異なる中で統一が図られ、1947年の独立以降、政権交代は全て選挙で行われてきた。クーデターも軍事政権も経験していないのは、開発途上国の中では極めて珍しいことだ。
国の規模や著しい経済成長、核抑止力を背景に、インドは超大国への動きを進めている。かつては「非同盟の盟主」志向が強かったが、冷戦後は、欧米やアジア諸国との関係を重視。G20の仲間入りを果たし、国連安保理の常任理事国入りにも意欲を見せている。さらに現首相のモディ氏は改革志向が強く、従来の「Look East」(アジアに学ぶ)政策から「Act East」(アジアで行動する)政策へと一歩踏み込むなど、アジア太平洋重視の外交を展開している。一方で、一帯一路戦略を進める中国とは、国境やインド洋をめぐって難しい関係にある。
超大国を目指すインドにも「影」はある。最大の問題は、カースト制度が未だに残っていることだ。同制度は違憲・違法であり、政府も廃止に努めているが、ヒンズー教に根差した問題であり、一筋縄にはいかない。このほか、貧困層の多さといった課題もある。
次に日印関係について考えてみたい。なぜインドは親日なのか。それは、仏教を通じた精神的なつながりや、日本人の資質に対する評価に加えて、日本が国づくりのモデルになってきたからだ。日本は明治維新後と第二次世界大戦後、自国の文化を維持・発展させながら近代化に成功した。これは途上国が理想とする形だ。またインドの独立運動時、インド国民軍や独立連盟の創設に、日本が貢献したことなども理由に挙げられる。
近年、日印関係は親密さを増している。2000年の「日印グローバル・パートナーシップ」樹立後、このパートナーシップを「戦略的」(06年)、「特別戦略的」(14年)と格上げしてきた。06年以降は、両国首相が毎年交互に相手国を訪問している。経済面でも、インドは日本から多額のODAを受け入れ、インフラ整備などを進めている。日系企業の進出も顕著になっており、2016年10月時点で1305社がインドに拠点を構えている。
インドでビジネスをするためには、多様性や精神性といった、インドの奥深さに理解を示すとともに、カースト制度に基づく極端な格差に対応しなければならない。またインド人と付き合う際には、相手の立場に心を寄せる一方で、自己の立場を主張するタフな精神が求められる。インド人は親日的だが、思考回路は合理的でビジネスライクだからだ。
インドに関心を持ち、支援・協力していくことは、日本の国益につながる。国家間のみならず、民間レベルでの人的交流を図ることが、今後ますます重要になるだろう。